ドルコスト平均法以外に、バリュー平均法という方法があります。
最終的な目的額を設定し、そこへ至るバリュー経路を設定して、一定期間ごとにバリュー経路額と時価額を比較し、
バリュー経路額>時価額 ならバリュー経路額に達するまで買い増し
バリュー経路額<時価額 ならバリュー経路額に一致するまで売却
するという方法です。
これだけだと何のことかよくわからないので、具体例で説明します。
(1) 定額で増額するバリュー経路
期首 | 期末経路 | 期末時価 | アクション |
10,000 | 10,100 | 10,050 | 50追加買 |
10,100 | 10,200 | 10,210 | 10売却 |
10,200 | 10,300 | 10,100 | 200追加買 |
10,300 | 10,400 | 10,450 | 50売却 |
バリュー経路に使う値は、100ずつ定額で増加していく方法です。図に書くとこう。
(2) 定率で増額するバリュー経路
期首 | 期末経路 | 期末時価 | アクション |
10,000 | 10,100 | 10,050 | 50追加買 |
10,100 | 10,201 | 10,210 | 9売却 |
10,201 | 10,303 | 10,100 | 203追加買 |
10,303 | 10,406 | 10,450 | 44売却 |
バリュー経路に使う値は、前期の1%増。定率で増加していく方法です。図に書くとこう。
(3) 定率に定額を組み合わせたバリュー経路
期首 | 期末経路 | 期末時価 | アクション1 | アクション2 |
10,000 | 10,100 | 10,050 | 50追加買 | 100追加買 |
10,200 | 10,302 | 10,310 | 8売却 | 100追加買 |
10,402 | 10,506 | 10,305 | 201追加買 | 100追加買 |
10,606 | 10,712 | 10,724 | 12売却 | 100追加買 |
バリュー経路に使う値は、各期首の1%増+定額100です。図に書くとこう。
*時価は適当な値を割り振っただけで特に意味はありません。
具体例を計算してみて思ったのは、
・最終的な目的額を設定しなくてもよい
・経路の設定方法は自由だが、三つのパターンが典型的
・出口戦略としては使える
この三つの例からすると、どこまでも無限に続けることができるので、最終的な目的額を設定する必要はありません。
例えば60歳まであと15年で、その時点で1,500と決めているのなら、(1)のバリュー経路を使って100-200-300-400-500-600-700-と決めればよいだけです。(2)では次のように乗数を求めます。
最初100、15年後に1,500、これに年1回のバリュー経路をつけてみましょう。
未知の乗数をaとして、100にaを15回かけたら1,500になればいいので、
100*a*a*……*a=1,500
これだと計算しにくいので、両辺を100で割って
1*a*a*……*a=15 100が1,500になるのを1が15、つまり15倍になる形にします。
すると1*a*a*……*a=15 は、a*a*……*a=15 なので、15の15乗根を求めればよい。
エクセルを使うと、=15^(1/15) と入力します。乗数はa=1.19786と求められました。
そこで毎期、期首額に乗数をかけた数字を期末のバリュー経路とする
その期末のバリュー経路を翌期首の額とし、そこに乗数をかけていく、
これを繰り返すと、
期 | 期首 | 定率 | 期末経路 |
1 | 100 | 1.19786 | 119.786 |
2 | 119.786 | 1.19786 | 143,486 |
3 | 143,486 | 1.19786 | 171.877 |
4 | 171.877 | 1.19786 | 205.884 |
5 | 205.884 | 1.19786 | 246.621 |
6 | 246.621 | 1.19786 | 295.417 |
7 | 295.417 | 1.19786 | 353.869 |
8 | 353.869 | 1.19786 | 423.885 |
9 | 423.885 | 1.19786 | 507.755 |
10 | 507.755 | 1.19786 | 608.220 |
11 | 608.219 | 1.19786 | 728.562 |
12 | 728.562 | 1.19786 | 872.716 |
13 | 872.715 | 1.19786 | 1045.392 |
14 | 1045.391 | 1.19786 | 1252.233 |
15 | 1252.232 | 1.19786 | 1500 |
端数の問題がありますが、無事たどり着きました。
さて先ほどの三つの例に戻りましょう。
これだけ見ると、毎期末にリバランスしていますね。ただしリバランスの相手はその個別銘柄なり投資信託です。安全資産に含まれる投資余裕資産全体ではありません。
バリュー平均法の欠点は、
・株価が激しく下落すると、追加の資金投入額が大きくなる。場合によっては投入できない場合も出てくる。投資余裕資産から無限に資金を引き出せることを前提として成り立つ手法である。
・金額で投資する投資信託はともかく、個別株やETFという売買単位が決まっている商品では、バリュー経路額―時価=買付額 が丁度にできない場合がある。
・単位株の値段の高い株式の場合、最低単位>買付額 となると買い付けができない。
・経路途中で売却が挟まると、2割の譲渡益課税があり、時間による複利効果が減殺される。
・一定期間経過後、投入元本と利益の区別計算が面倒。追加購入をする度に、購入株数/口数を記録しておく必要がある。もっとも、取得原価を気にせず、計画通り取り崩すべし、という出口戦略からすると欠点とは言えない。
投資余裕資産の金額が時間の経過と共に大きく変化する現役勤労世代、また、支給された年金から追加投資をしようとする退職世代にとっても、バリュー経路は使いにくいですね。リスク管理の観点からも、バリュー経路で計算して追加投資をした後、投資余裕資産全体の額を見て、またリバランスを考えなければならないので、二重の手間がかかります。
複数商品に投資することが戦略の前提であることが多いから、余計に面倒です。全世界株式投資信託一本で行く、というのなら、まだましですね。
出口戦略としての、右肩下がりバリュー経路は使えそうです。
出口戦略としては、
不足額のみ取り崩し、定額取り崩し、株数/口数取り崩しが典型的ですが、それらと組み合わせて時価の高いときに余計に取り崩す形が考えられます。ただ時価が急落した場合に買い増すかどうかは問題ありますね。