かけこみリタイヤ―のダイヤリー

陰キャで隠居!58歳10か月でアーリー?リタイヤしました。

取引残高報告書≠特定口座年間取引報告書 同じにならないわけ

有価証券を譲渡した時に
受渡金額―取得原価―売却手数料=譲渡益
で譲渡益を認識することになりますが、複数回にわたって取得し、その一部を売却したようなケースでは売却部分と残存部分に取得価額を配分する計算が必要になります。
その場合の計算方法は、総平均法と移動平均法があります。
次の例で計算してみましょう。なお、購入時手数料などは取得価額に算入されますが、単純化のためここではないものとしています。

単価 数量 取得価額
期首 1001 10 10010
買い 1013 4 4052
売り 1014 5
買い 1016 3 3048
売り 1019 2
買い 1021 5 5105
買い 1025 4 4100
26315

期首と買いによる資金投入総額は26,315円です。
まずこれを総平均法で評価してみましょう。エクセルで端数付きのまま計算します。この端数付きというのがミソです。

単価 数量 取得価額
期首 1001 10 10010
買い 1013 4 4052
売り 1014 5
買い 1016 3 3048
売り 1019 2
買い 1021 5 5105
買い 1025 4 4100
期末 1012.115385 19 19230.19231
譲渡原価 1012.115385 7 7084.807692
26315

総平均法では、期間中の譲渡を無視して、期首と買いをすべて合計し、取得数量の総額で割ります。
(1001×10+1013×4+1016×3+1021×5+1025×4)÷(10+4+3+5+4)=1012.11538461
これを期末残19と売り7でそれぞれかけると、
期末残 1012.11538461×19=19230.19231
譲渡原価 1012.11538461×7=7084.807692
両者を足すと19230.19231+7084.807692=26315 投入資金と等しくなりました。

次に移動平均法です。

期首 1001 10 10010 修正単価 数量
買い 1013 4 4052 1004.428571 14
売り 1014 5 5070 9
買い 1016 3 3048 1007.321429 12
売り 1019 2 2038 10
買い 1021 5 5105 1011.880952 15
買い 1025 4 4100 1014.642857 19
期末 19 19278.21429
譲渡原価 7 7036.785714
26315

移動平均法では、新たに買うたびに、平均単価を計算しなおします。
(1001×10+1013×4)÷(10+4)=1004.428571 (1回目)
(1004.428571×(14-5)+1016×3)÷(14-5+3)=1007.321429 (2回目)
期首に1回目の買いで数量が14になりましたが、5売却したので、次の3を買った時には、前から繰り越した(14-5)=9に1回目の計算単価をかけます。
(1007.321429×(12-2)+1021×5)÷(12-2+5)=1011.880952 (3回目)
3回目も同様に、数量12から、売却した2を引いて2回目の単価をかけます。
(1011.880952×15+4100×4)÷(15+4)=1014.642857 (4回目)
これに期末残19にかけると 1014.642857×19=19278.21429
売り1回目の譲渡原価は、1004.428571×5=5022.142855
売り2回目の譲渡原価は、1007.321429×2=2014.642858
1回目と2回目を足して、5022.142855+2014.642858=7036.785714(端数あり)
期末残と譲渡原価合計を足すと、19278.21429+7036.785714=26315 こちらも投入資金と等しくなりました。

さて、特定口座の場合、譲渡した時に取得単価を総平均法に準ずる方法で計算し、円未満の端数を切り上げます。(所法48、所令118、措通37の11の3-1、措通37の10・37の11共-14)
ではまず、端数付きで計算してみましょう。円未満の端数を切り上げません。

期首 1001 10 10010 修正単価 数量
買い 1013 4 4052 1004.428571 14
売り 1014 5 5070 9
買い 1016 3 3048 1007.321429 12
売り 1019 2 2038 10
買い 1021 5 5105 15
買い 1025 4 4100 1014.642857 19
期末 1014.642857 19 19278.21429
譲渡原価 1014.642857 7 7036.785714
26315

この総平均法に準ずる方法とは、期間中に売りが発生した場合、前回の売り直後から今回の売りまでの間を一つの期間として総平均法を適用するというものです。
1回目の売りの時点での計算
(1001×10+1013×4)÷(10+4)=1004.428571
2回目の売りの時点での計算
(1004.428571×9+1016×3)÷(9+3)=1007.321429
期末での計算
(1007.321329×(12-2)+1021×5+1025×4)÷(12-2+5+4)=1014.642857
※この表に表示されない小数点以下の数字があります
これに期末残19にかけると 1014.642857×19=19278.21429
売り1回目の譲渡原価は、1004.428571×5=5022.142855
売り2回目の譲渡原価は、1007.321429×2=2014.642858
1回目と2回目を足して、5022.142855+2014.642858=7036.785714(端数あり)
期末残と譲渡原価合計を足すと、19278.21429+7036.785714=26315 こちらも投入資金と等しくなりました。移動平均法は買いの度に取得原価を修正していますが、総平均法に準ずる方法では、売りが出るまでの間の買いの分はまとめて計算します。そこしか違いがありませんから、端数と言っても極小さい部分のみで、ほぼ結果は一致します。

この例のように、期末に向かって取得単価が上昇している場合、総平均法では譲渡後の高めの単価も譲渡原価の計算上取り入れてしまいますので、高めの譲渡原価が算出されます。しかしながら、譲渡時点で譲渡原価が確定していないという欠点があります。特定口座では譲渡時点での原価を確定し、受渡金額-譲渡原価-譲渡費用=譲渡益 に源泉徴収税率をかける必要があるので、採用されなかったのでしょう。
また移動平均法では、買いの度に取得原価を修正する必要があり、計算が煩雑で端数によるブレが出てきます。
そこで特定口座における、譲渡に係る取得原価の計算上、両者の折衷によるものとしたと思われます。しかしながら、所得税法令及び関係通達によれば、譲渡時に算出した単価は、円未満の端数を切り上げることになっています。では、先ほどの計算を円未満の端数を切り上げて計算してみましょう。

期首 1001 10 10010 修正単価 数量
買い 1013 4 4052 1005 14
売り 1014 5 5070 9
買い 1016 3 3048 1008 12
売り 1019 2 2038 10
買い 1021 5 5105 15
買い 1025 4 4100 19
期末 1015 19 19285
譲渡原価 7 7041
26326

1回目の売りの時点での計算
(1001×10+1013×4)÷(10+4)=1004.428571 →円未満切上げ→1005
2回目の売りの時点での計算
(1005×9+1016×3)÷(9+3)=1007.75 →円未満切上げ→1008
期末での計算
(1008×10+1021×5+1025×4)÷(10+5+4)=1015 この数字は意味がありません。本来総平均法及び移動平均法は、有価証券への投入資金を譲渡原価と翌期繰越資産に配分するための方法であるのに、特定口座における総平均法に準ずる方法は、あくまで譲渡時の譲渡原価と譲渡益を確定して、源泉所得税を算出する目的だけのためのものだからです。
1回目の譲渡原価 1005×5=5025
2回目の譲渡原価 1008×2=2016
譲渡原価の合計 5025+2016=7041 この数値に先ほど(仮)に算出した期末19の取得原価を足してみると、7041+1015×19=26,326 と投入資金26,315とは異なる数値になりました。

取引残高報告書は、取得に必要とした資金(受渡金額+購入手数料)から譲渡時の移動平均法により単価計算に基づく取得原価(+売却手数料)を控除して報告しますので、特定口座年間取引報告書とは異なる表示になるのは、以上の理由によるものです。これは同一銘柄での売却回数が増えれば増えるほど、乖離していきます。譲渡原価計算上の単価の円未満を切り上げると譲渡原価が大きめにでてきますので、取引残高報告書上の利益が、特定口座年間取引報告書の利益よりも大きくなります。