かけこみリタイヤ―のダイヤリー

陰キャで隠居!58歳10か月でアーリー?リタイヤしました。

去っていった人-Sさんの話

Sさんはとっても困った人です。
Sさんとは、20代のころ入っていた合唱団で知り合いました。
Sさんは当時40代前半くらいだったと思いますが、正確な年齢はしりません。とにかく額がそろそろ後退してくるお年頃のおじさんでした。
平気で思ったことをストレートに言ってくる。こっちが気にしていることをズバズバからかいの種にして、本人に直接笑いながら言ってくる。本当に困った人でした。
多分まったく悪びれた様子もないので、今から考えるとアスペルガー症候群の人だったのかもしれません。
当時はそんな知識も余裕もないので、腹が立つことが何度もありました。
たまりかねて、あるとき「Sさん、そんな失礼なこと言うのやめてください。」と厳しく言ったことがあるのですが、「あっ、そっ、そうなの?」と言ってあまり理解していない様子でした。

当時私は自転車で通勤していました。車道の端を使い、車の流れにある程度ついていかないと危ないので、かなりのスピードを出します。大体路線バスと抜きつ抜かれつぐらい。駅前の横断歩道で私が通過するのを見た友人が後で「猛烈なスピードで過ぎていった」と言っていたくらいでしたから。
ある朝例によって車道の左端を高速で走っていますと、後ろからSさんが原付でやってきました。私に気が付くと、Sさんは私の右側に並んできて、かるく体当たりを食らわせてきました。にっこり笑って。
多分ふざけているつもりだったのだと思います。よく幼稚園児とか小学生が歩いててやるじゃないですか「どーん」とかいって。
しかしいくら自転車とはいえ、つまり路線バスと同じくらいのスピードを出していますから、転倒したら大けがです。まして転んで車に巻き込まれでもしたら。
自転車よりはるかに車体の重い原付で横から軽くとはいえ体当たりしてくる。
ハンドルは左にブレました。私は止まってSさんに「あぶないじゃないですか!」と怒鳴りました。
「あっ?ごめんごめん」と言ってSさんは、「じゃ」と先に行ってしまいました。
私は怒鳴りましたが、このあまりにむじゃきなSさんの表情を見ると、怒るのを通り越して呆れてしまいました。

それから、一年くらいたったころでしょうか。
火曜日、合唱団の定時練習にいくと、Sさんが死んだ、という知らせが回っていました。
別に病気したとか入院したとかの話は聞いていなかったし、交通事故かなんかかな、と思いました。
回覧によれば、死亡した日が何曜日だったのか覚えておりませんが、お通夜はその三日後。
ピンときた私は、長老団員にこっそり死亡した経緯を聞いてみました。
予想通り「自殺」でした。
Sさん自身は、自分が周りにどう思われているのか、多分気が付かなかったし、気にしていなかったのかもしれません。それでも生きづらさは感じていたのでしょう。
私はそれほど親しいと思っていなかったのでできませんでしたが、Sさんの生きづらさを和らげるために何か言えたでしょうか。またそれはSさんに届いたのでしょうか。