かけこみリタイヤ―のダイヤリー

陰キャで隠居!58歳10か月でアーリー?リタイヤしました。

武藤北斗「生きる職場-小さな工場の人を縛らない働き方」イースト・プレス

前回紹介した本とは対極にある会社のお話です。
社員は筆者である工場長ともう一人だけ、残りは全部パートさん。そして、「いつ何時に出勤するか、いつ帰るか自由、連絡はしないこと」「嫌いな作業はやらなくてよい」という会社の実録です。筆者曰く、本当に従業員にとって働きやすい職場というものを考えて試行錯誤したらこうなったそうで、売り上げは横ばいながらパートさんの人数は13人から9人に減って、それできちんと回っているとのこと。
この人が素晴らしいのは、まずパートさん一人一人と面接し、しかも呼び出されて聞かれている体では本当のことを言ってくれないと思って、屋外作業をお願いする振りをして立ち話をするとか、またパートさんの作業を実際に一緒にやって話を聞くなど、時間をかけて本当のことを言ってもらうための信頼関係をまず築いたことですね。
前回の紹介本の課長とえらい違いでしょ。
人が集まれば、猿山と同じく上下関係を作ろうとしたり、いがみ合ったり、人は争うものだという前提で、じゃあ、しくみとしてどうすればそれが起きないようにするか、ということを考えてあれこれやっているうちにこうなった、という話なのです。
例えば、仲の良いパートさんが隣り合って作業をすると、おしゃべりで手が止まる。よくありますよね。じゃあどうしたらよいか。来た人から順に奥の席から埋めて作業してくださいというきまりにする。
厳密さを要求される商品の計量作業以外では「私語ok」という決まりをつくりました。そうしたら、気の合う人ならいいけど、余り話の合わない人と隣同士で作業をするときに私語を「しなければならない」気持ちになって落ち着かない。じゃあどうしたらいいですか、とパートさんを巻き込んで新しいルール、「社員がいる時は私語ok、いない時は私語厳禁」にしました。そしてずーっと黙っていると雰囲気が緊張するので、作業場にラジオを流す。
そして、いつ来ても帰ってもいい、事前連絡はしない、というフリースケジュールと読んでいる制度を導入した時、自分の心境の変化に触れていることも見逃せません。
つまり、欠席は連絡必要という制度にすると「何で連絡くれないの、休むんだったら連絡くれるのが当然でしょう」という経営者の一方的な目線から、何時かわからないけど来てくれた瞬間「ああ、来てくれたんだ、作業に入ってくれてありがたいな」と思うようになったということ。この自分の変化の気づきが素晴らしいですね。
これからの会社、組織、二人以上が集まって共同作業する時の、貴重なヒントが詰まった本であると思います。
またまた自分のリタイアの話に引き付けてしまいますが、一人じゃできないことを二人以上でするのが会社であったとしても、個人は会社の奴隷ではない。「お前の代わりは沢山いるんだ」というのであれば、そのとおり、だったら私が急に休んでも会社は滞りなく回っていくんでしょうよ、と言いたかったけど言えなかったんですよきっと。
ずっと法人って何のためにあるのだろう、と思ってきましたが、知的障碍者が従業員の70%だという日本理化学工業の取り組みもそうですけれど、その人その人に合わせた働き方を個別に提示できてこそ、組織としての存在意義、価値があるのです、個人の幸せと共に歩んでこそ、組織として事業を行う価値があるのだと改めて思ったのでした。