かけこみリタイヤ―のダイヤリー

陰キャで隠居!58歳10か月でアーリー?リタイヤしました。

木谷明「違法捜査と冤罪 捜査官!その行為は違法です。」日本評論社

タイトルの副題「捜査官!その行為は違法です。」という文言が生ぬるく感じるくらい怖い本です。

読んでいるうちに、これでもかと警察・検察・裁判所の違法と怠慢で冤罪が生み出された事例の羅列に気分が悪くなりますね。しかも、これって氷山の一角だよね。偶然と幸運が重なって冤罪であることが明るみに出て無罪を得たという例だから。っていう感覚が襲ってきて、もし自分が警察に疑われたらもう逃げられない、って思われる息苦しさがあります。
しかも最終的に無罪が確定した事例だけを紹介、ただし冤罪が強く疑われる重要判決であると思われる2件を例外として収録ですから。

別件逮捕して激しい拷問の末虚偽自白させたうえ、自白に「秘密の暴露」を捏造
・ずさんな血痕鑑定を根拠に逮捕・勾留し、シャツの血痕まで捏造して死刑求刑
・決定的なアリバイ証拠を隠蔽
・拷問を告発した警察官を偽証罪で逮捕・勾留
・唯一の物的証拠である拳銃の試射弾丸を警察が捏造した疑い
・外部侵入犯行の形跡が顕著であるのに、無理やり内部犯行説を仕立てて被害者と同じ部屋で寝ていた内妻を犯人に仕立てて起訴した
・唯一の物的証拠である陰毛をすり替えた

目次から少しだけ抜粋して抜き書きしてみましたが、ひどい話ですね。思い込みで任意同行を拒否できることさえ教示されず、挙句に長期間勾留し、虚偽自白させられるという。
陰毛のすり替えでは、裁判所の鑑定で頭髪であったことが明らかになるという。なんという酷さ。

戦後の混乱期の産物じゃないの、と思われた方がいるかもしれませんが、最後に取り上げられた事例は2009年7月に起訴されたものです。

警察や検察が描いた犯罪の構図に当てはまる情報のみやっきになって収集し、当てはまらない時には無罪推定の素となる重要証言や物的証拠を無視、隠蔽、廃棄するという、あげくに矛盾が生じてどうにもならなくなると証拠を捏造するという。

最後に筆者は、平成の時代となってさえ、この種の冤罪事件がかなりの頻度で発生していることに改めて注目すべきである、として現状の問題点と改善意見を簡潔にまとめています。
科学的とされる鑑定でも、権力に追従し、事実に反する結果をあたかも科学的真実であるかのように述べる似非科学者がいることを裁判所は肝に銘じてほしいとまで書いてあります。これじゃ被疑者が絶望するのも当然ですね。

筆者のまとめはまことに当を得たものと完全同意しますが、私なりに改善意見を。
・任意同行であることを教示しなかった結果作成された調書は証拠採用できない。
・警察及び検察の取り調べは必ず弁護士など第三者の立ち合いがなければ成立しないとする。録音録画して弁護士も複写を持ち帰ること。
・警察及び検察が収集した証拠をすべて開示しなかったことが明らかになった場合、手続きの違法につき公訴廃棄とする。
・判決確定後であっても無罪推定となる重要証拠が発見された場合、24時間以内に再審開始する。
最高裁判事の半分超を職業裁判官ではなく、弁護士とする。
最高裁以外の判事も半分超を中途任用として、官民交流を義務化する。
・検察と警察は純潔主義ではなく、中途退職と中途就職をすすめ、過去の司法事務経験などで給料も考慮し、退職金制度は廃止し、確定拠出年金制度の持ち運び自由にする。

読んでいて自分が嫌疑をかけられたら虚偽自白させられて、それが自白調書となって、裁判官は無条件で信用し、判決が確定するという、まことに現代のホラーとして慄然とするばかりです。
これじゃあ、公正な裁判が期待できないから、といって逃亡したカルロス=ゴーン氏を非難できないですよ。

なにより自白偏重主義がここまで蔓延っているのかというのが驚きです。自白を裏付ける物的証拠がまったくないのに、嘘をついてまで執念で公判を維持しようとする警察・検察。嘘をつけない、裁判が長期化できない仕組みを構築する必要性を強く感じます。

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