かけこみリタイヤ―のダイヤリー

陰キャで隠居!58歳10か月でアーリー?リタイヤしました。

藤田紘一郎「人の研究を笑うな」ワニ・プラス

寄生虫博士と呼ばれた藤田紘一郎さんの遺作。
好きな研究をやるんだ、嫌いなことはウソをついてでも断る。医学部に嫌われて俸給上昇をストップされても自分を貫いた藤田さんの原点は東京大空襲にあると思います。
焼け死なないように河に入れという兵隊の命令。水は3月で冷たいし川口の親戚にどうしてもいきたい。「橋は敵機の標的になるぞ」の声を無視して渡った時、河に飛行機が落ち、もれたガソリンが川面一面を火の海に。橋を渡って生きていたのだって偶然だ。
しかし助手の時代、最初は担当教授に気に入られようと実験する振りをして残っていたりしたのが、インドネシアでの生活から帰って来て、用がある時だけ研究室にきて実験が終わるとさっさと帰る。自分を貫くように変わってしまうといっぺんに嫌われてしまったそうです。助手の期間が終わったら面倒みないのでどこへでもいけ、と言われたと。
私ももっと小さいけど似た経験があります。自由な出向先から帰って来て、同じような調子で課長を「さん」づけで呼んだら課長が激怒。一遍に嫌われてしまったという。
子供時代にいじめられたこと、薬事法違反の嫌疑で書類送検されそのご不起訴処分になったものの、講演や顧問の依頼は潮が引くようになくなってしまったことなどなど、人生の苦難に何を支えとして踏ん張ってきたか、是非本書をお読みいただければと思います。
ところで、藤田さんの研究にまつわる面白い話も沢山載っています。
助手たちを連れて行ったカリマンタン島ではダヤック族の族長から、血族結婚が多いので、どうしてもあなたたちの子種がほしいと言われ、若い娘達を連れてこられて明かりを消されたり、ニューギニアでは、ウンコ採集に励んでいると、ブッシュの間で性交している男女に出くわしたり、女性は排便を見られたら見た男性と性交しなければならないという習慣に目を白黒させたり。
役に立つ小話も沢山ありました。
マラリアに効く薬はない、とにかく媒介蚊であるハマダラカに刺されないよう、肌の露出を避け、吸血活動が活発になる夕方から夜にかけて外出しないこと。
日本海裂頭条虫、サナダムシは卵を飲んでも飼うことができない。感染者が川にうんこをするとサナダムシの卵が孵化してミジンコが食べる。ミジンコの体内で幼虫になる。そのミジンコをサケが食べて感染型の幼虫になる。そのサケを生食して初めて人間に住み着く。藤田さんは石狩川でとれるサケを1000匹余り送ってもらい、感染幼虫をさがしたそうです。感染するとアトピー症状、うつ病も軽減するが、瘦身には約にたたないとこのこと。サナダムシを飼うと猛烈な食欲が出てそれを抑えるのはとても困難だからだそうです。
マハカム川という地元民がうんこの浮かぶ中洗濯したり飲んだりする水が実は、ジャカルタの水道水よりもはるかに病原体が少ないという驚き。そのかわり微生物は沢山。キレイとはキタナイとはなんだ、とわからなくなって、寄生虫のアレルギー抑制説を導き出す一歩を踏み出すことになった。

P15真の安定とは、水の流れのように「変化し続けること」
P67 本当の「わがまま」とは相手を自分に従わせることではなく、他人の「あるがまま」を受け入れようとしないことだ、ということにも気づきました。つまり、「わがままをいうな」と相手を自分に従わせようとする行為そのものが「わがまま」なのです。
P69何か自分が「よい」と思うことをして、「相手が喜んでくれなかった」と怒りが芽生えれば偽善で動いているからです。喜捨の心で動けば、相手がどう反応するかなど関係なくなります。

寄生虫を研究しながら、寄生虫に教えられ支えられ、ご自身の人生哲学を全うされた藤田さん。苦難の中に笑いとどうやって耐えたかのお話にこちらも勇気づけられる一冊でした。