かけこみリタイヤ―のダイヤリー

陰キャで隠居!58歳10か月でアーリー?リタイヤしました。

オド・マッソ「ホームレス救急隊」共栄書房

副題は、フランス「115番通報」物語。日本の119番にあたる救急電話はフランスでは15番です。それに準じてホームレスのための緊急避難電話を作ったグザビエ・エマニュエル氏と組織であるSAMUソシアルのバンド・デシネ*1
・人間は4つの要素で出来ている…あなた、私、個人、他者。身体的知覚、時間感覚、空間感覚、規範意識
救急隊医から国境なき医師団の一員、そして刑務所の一般医になったエマニュエル氏は、なんとかシラク氏に渡りをつけ、彼が大統領になったときSAMUソシアルを立ち上げる。
・路上の人たちは「なし」の人々…住所なし、滞在許可証なし、健康なし、教育なし。
権利を奪われた人たちのための戦い。

欧州では人口の90%が都市や町で暮らし、2030年には世界人口の65%が都市部で暮らすようになるといわれています。そのようなメガシティ現象のなかで、排除される人たち、排除とはつながりの貧困によって生み出されるもの。例えば孤立した高齢者、仕事も教育もない若者、精神疾患を患う者、移民。

1985年、ジャン=バプティストフーコーが失業に対する新しい連帯(SNC)を設立。民主主義はもはや経済によってだけでは実現できない。金銭的な欲望につけこむことで始まる社会の無意味さに対する抵抗、社会の新しいルールに関わる人や組織がより責任のある態度をとることによる規制、経済、社会、環境問題を和解するため、節度と公正と友愛の価値に基づいた市民契約の3つの文化を提唱した。

このフランスの人道主義的運動から生まれたもののひとつがSAMUソシアルである。「自由と平等、友愛、連帯の原則を再確認することによって人権宣言の哲学にしたがって救援」することを目的とする。
作者は、マロードと呼ばれる深夜の見回りに同行し、ホスピスで活動を共にして、排除、身体、時間、空間と他者性という内容を掘り下げていきます。

同行取材の章を読んでいて私が特徴的だと感じたのは、平等原則と本人の意思の尊重です。緊急通報が入ったら端末で利用状況を確認し最近シェルターを利用した人は身体的窮迫がないかぎりお断りする。他の人のためにベッドを開けておく必要があるから。また逆に荷物を取られたくない、自分に触られたくない、ペットをつれていけない、他の人には理由を言えないなど様々な理由でシェルターに行くことを拒む人には、例えその人が重篤な疾患、例えば壊死で歩けなくなっていたとしても、本人の意思を尊重する。

人は財を獲得することでアイデンティティを確立し社会の中に自分の居場所をみつける。
財には非物質で消えてなくならないものがある。人格、教育、経験、思い出。
財があってもつながりがなければ排除に至る。

路上生活という現象からすけてみえるつながりの貧困こそが根源的な問題なのだ、そこに少しでも手を差し伸べられれば、本人の意思を尊重しながらね、というSAMUソシアルの活動を、まずエマニュエルのいう要素別の考察をたて、その後に同行取材を漫画にして、問題の所在と理解を深めていきます。

作中に理解に悩む作者がたびたび登場し、一緒に考えているような気持ちになりますね。

私にとって、フーコーの3つの文化の提唱こそ、誰もが幸せに生きるために目指すべき理念であると思いました。

産業革命以来、共同生産生活社会である農漁村が崩壊し、都市化とスラム貧困層の出現を見たわけですが、それから一世紀以上たっても少しもましな世の中になっていない気がするのは、自分だってちょっとしたことで、貧困と孤独に陥るかもしれないという恐怖感覚がなくならないからだと思います。
責任持てる範囲で出来ることをやっていくと共に、周りの人に心安らかな世界を提供する一助ができればと改めて思いました。

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*1:フランスのコマ割り漫画のこと