かけこみリタイヤ―のダイヤリー

陰キャで隠居!58歳10か月でアーリー?リタイヤしました。

テンプルグランディン&マーガレットMスカリアノ著「我、自閉症に生まれて」学習研究社

自閉症という名称は英語のAutism(自己完結)の訳語ですが、外界からの刺激に敏感すぎるために、一切をシャットアウトして身を守ろうとするので、他人から見ると“自分に閉じこもっている”ように見えるから自閉症と名付けたのではないかと推測しますが、これだと閉じこもって出てこない本人が悪いみたいな印象です。
自閉症じゃなくて、過敏症とか反応過大処理不全とかにすればよかったのに。
この本は自閉症でありながら、母親の愛情と適切な専門家と教師たちの力添えを得、イリノイ大学で博士号を取得し、同時に畜産動物の取扱い器具の設計会社の社長も務めるようになった一人の女性の自己記録です。
叔母の牧場で、落ち着かない子牛を焼き印を押したり角を切ったりするための動きを止めるための“牛樋”に追い込んでいると、その後子牛が落ち着くことを観察して17歳で自分用の“牛樋”である締め付け機を作り始めたのがきっかけでした。
他人とのコミュニケーションがうまくできず、パニックで衝動的にかんしゃくを起こし暴力的になってしまう困った子が、自分を客観的に認識して落ち着いていくように自分を仕向けていったかという物語が主軸なのですが、私が気に入った個所を一点だけ。
音声言語や文字言語での理解に困難がある反面、図に書かれたもの全体を理解する能力に優れていた。エンジニアは部品をくみ上げるように法則と個別動作から全体を設計して、彼女はそれを序列的思考と呼んでいますが、実はそれがうまく動かない。ところが、職人や修理工やグランディン氏は全体を眺めて、どこがうまくいっていないのか視覚的思考と呼ばれるやり方で見事解決してしまうのだ、というところですね。
読字困難者の中に、異常に高い割合で音楽や空間認識能力が高い者がいる。
先の「上流国民下流国民」で人間は社会的動物だ、と言っていますから、人との触れ合いがうまくいかない人生は勿論その手段がうまくつかめないけど渇望している自閉症者にとっては地獄でしょうが、代わりに右脳の神経細胞組織が補うように肥大して特殊な能力を発揮させているのではないか、というくだり。
御当人は苦労の連続であろうかと偲ばれますが、環境変化でも人間が生き延びるための多様性の一つと言えますまいか。