かけこみリタイヤ―のダイヤリー

陰キャで隠居!58歳10か月でアーリー?リタイヤしました。

ジョージ=オーウェル「一杯のおいしい紅茶」中公文庫

図書館の新刊コーナーで津村記久子さんの「苦手から始める作文教室」ちくまQブックスという十代向けの本を手に取って読んだら、巻末にこんな本読んでみたらどうですか、とおすすめが掲げられていてそのうちの一冊がこれだったので、検索して借りてみました。
作者は「動物農場」「1984年」で有名な方ですが、この本はエッセイ集。主に1946年あたりの第二次世界大戦後すぐのイギリスの生活が中心に描かれています。

表題作で、完全な紅茶の淹れ方として絶対譲れない十一項目を挙げています。
1.茶葉はインド産かセイロン産に限る。中国産は刺激に乏しい。
2.陶磁器又は白目のポットで一時に飲む量のみ淹れること
3.ポットはあらかじめ温めておくこと
4.濃いこと。一杯の濃い紅茶は二十杯の薄い紅茶にまさる。一リットルに茶さじ山盛り六杯。
5.茶葉はじかにポットに入れること。葉がポットの中で動けるようにしないとよくでない。
6.ポットを薬缶のそばへ持っていくこと。お湯が葉にぶつかるその瞬間にも沸騰していないといけない。注いでいる間も下から炎があたっていないとだめだ。
7.紅茶が出来た後、かきまわすか、ポットをよく揺すって葉が底に落ち着くまで待つこと。
8.カップはモーニングカップを使い、浅くて平たい形のものはすぐ冷めてしまうので使わないこと。
9.紅茶に入れるミルクから乳脂分を取り除くこと。乳脂が多すぎるとむかつくような味になる。
10.紅茶を先に注ぎ、ミルクはその後から注ぎながらかきまわしていけば正確に加減できる。
11.砂糖をいれない。

順番に見ていきましょう。

1.今ではブルンジ産や日本産もあるので、物資が乏しい大戦後のオーウェルさんと同列に並びませんが、いいたいことはわかります。私もインドのダージリン産を第一候補とします。ただしわたしはミルクティーを飲みませんから断言できませんが、インドのアッサム産はミルクティーに良いらしい。またストレートティーなのでリプトンのティーバッグは茶葉の量が多めで渋すぎる。そうなると渋味があっさりした日本製も捨てがたいです。

2.白目とは錫合金で銅鍋から緑青*1が出るのを防ぐため内張りする材料にもなっています。最近はステンレス内張もあるようですが。以前は鉛も配合されていましたが、鉛中毒が懸念されるのでアンチモニー、銅と化合して作られます。
https://wol.jw.org/ja/wol/d/r7/lp-j/101979007
銅鍋で純銅と謳いながら、内側が銀色なのは錫引き又はステンレス引きなので純銅100%ではないですね。日本の法律では家庭用の銅鍋は内側コーディングがいまだに強制されています。
https://www.kitchenparadise.com/blog/2022/10/21/post-4944/
残念ながら錫引きのポットは持っていないので何とも言えません。陶器や磁器のポットしか使ったことがありませんから。

3.これはわかりますが、あまり気にしていないかな。オーウェルさんは暖炉の棚から突き出ている台に載せておくといい、とおっしゃいますが、暖炉はない。あったまっているポットが良いというのは賛成します。

4.うちにある茶さじで測って見ると茶葉山盛り1.6g。普段入れている紅茶茶碗で140ml。これはモーニングカップより小さいですけど。1,000ml÷140ml=7.14杯。なんと我が家の紅茶はオーウェルさんの紅茶より濃い。もっとも私の場合「山盛り」ではなく「うっすら山盛り」なので同じくらいかもしれません。ちなみに日東紅茶ティーバッグが一袋1.8g。リプトンは2.0g。私には渋すぎる味。もしかするとモーニングカップ9分目で230mlでしたから、それくらいを想定しているのかもしれません。ティーバッグ用は袋に閉じ込めてありますから茶葉を細かくしてよく出るようになっている。ゆえに濃さの比較は厳密ではありませんが、大体二次大戦後すぐと現在、イギリスと日本で人間の味覚は紅茶に関していえば同じくらいなのかな、と思われて感慨深いですね。

5.これはもう全面賛成します。

6.賛成ですが、薬缶から注いでいる間も火にかかっているのは、ムリかなあ。

7.買ってきた紅茶の袋にお勧め時間が書いてあるので、砂時計を使って大体守っています。かき混ぜるとスプーンが一本洗い物が増えるのでやりませんが、茶葉が上下して下に落ち着いたころ出来上がり、というのは賛成です。

8.これもわかる。特に冬。イギリスは夏でも冷涼なので特にそうでしょう。そういえば以前アルコールをたしなんでいた時、ギネスビールを常温で飲む、というくだりがありまして、これはイギリスの室温を基準にしているんですね。実はギネスは冷蔵庫で冷やすと苦すぎるのですが、ちょっと冷たいぐらいだと甘味さえ感じるのでご参考まで。

9.どうやら1940年代のイギリスではミルクティーがデフォルトだったようで。ストレートティーしか飲まないので何とも。

10.何とも。

11.賛成です。中学生の頃、我が家でも紅茶に砂糖やレモンを入れるのはやめよう、となりまして、早速ストレートにしたら「にがい。」しかし不思議なもので、一週間もストレートで飲んでいたら苦さに慣れ、寧ろ、茶葉ごとの個性さえ感じられるようになった。
今は市販の紅茶ペットボトルでもストレートティがある位ですから、ミルク入り、レモン入り、微糖と選択肢は豊富ですね。
高級な茶葉で入れる時は特に、産地ごとの違いも楽しめるストレートがお薦めです。でも慣れないと苦いかな。

そういえば、先日timelineで流れてきた、北ドイツ東フリースラントのお茶作法というのを見ていたら、茶碗に氷砂糖を入れてから、やおら紅茶を注いでいましたね。
https://www.youtube.com/watch?v=d78fZJX3lmE
ローラインガルスワイルダー大草原の小さな家」はアメリカ開拓時代ですが、この頃だと紅茶はソーサーにこぼして飲むのが上品だったとか。
ところ変われば品代わる、特にマナーは変転著しいですが、味覚はどうなんだろ。百年二百年前の人たちと現代の人たちの味覚は調味料含めた分量のレシピが残っているなどしないと、比べてみることができませんが、甘味に対する感受性や欲求など、違いがわかると面白いのにね。
この本では、他に、街角のパブが廃れて映画とラジオと言う麻薬のような受け身の娯楽がじりじりと浸透しはじめたのだ、とか、今日のスポーツはほとんどが競争で勝つためにプレーしなければ意味がない。すると国際的な試合というものは国家の威信をかけた模擬戦争にほかならない。国際的な友情をはぐくむとか戦場で会おうとは思わなくなるなどあきれてものが言えない、とか、オーウェルさんは当時の世相への批判として書いたものにちがいないのですが、時代を超えて人間の本能をえぐりだすことになっているものもあり、今でも十分読む価値があります。

*1:猛毒であると信じられていたが1986年に厚生省から誤っていると発表された。