チャールズ・エリス著鹿毛雄二訳「敗者のゲーム」原著第6版和訳の39ページから41ページにわたって出てくる話です。
1980~2008年の間で間違えて最も上昇した日の前に売ってしまった時の、株式の複利利回りに与える影響として、S&P500を使って説明しています。
ベスト10日を逃す 11.1→8.6
ベスト20日を逃す 11.1→6.9
ベスト30日を逃す 11.1→5.5
ベスト10日は対象期間の0.25%未満、ベスト30日は0.5%にすぎない。
1928年から2000年の上昇率ベスト60か月間に株式リターンの大部分が達成される。
S&P500に1ドル投資した場合、最近の10年間で
ベスト90日を逃したら22セントの損、
ベスト60日を逃したら30セントのみ、
10年間持ち続けていたら5.59ドルになっていた。
過去72年間のうち、べスト5日を逃すと利益は半減してしまう。
過去109年間(3万9812日)でベスト10日を逃しただけでこの間の利益の3分の2を失う、(余談10年間で最悪の90日を避けることができれば42.78ドルの利益となる)長期的に見て投資家が失敗する原因の一つは、激しい下げ相場に遭遇してパニックに陥り、上記のような最大の上げ相場に参加する機会を自ら放棄してしまうことだ。この教訓は明らかである。投資家は「稲妻が輝く瞬間」に市場に居合わせなければならないということだ。相場のタイミングに賭ける投資は間違っており、決して考えてはいけない。
第6版は2013年7月9日出版のようです。
“稲妻の輝く瞬間“というのは投資期間のほんの一部分で、しかもいつか分からない。だからずっと株式を持っていなさい。一番大事な上昇期を逃すと、損失を小さくすることも利益を大きくすることもできないのだから、利益を大きくしようと思って、相場の様子を見て売り買いするのはやめなさい。
という教訓なんですね。
ところで上記のうちベスト10日ですが、28年間で年間営業日250日とすると28*250=7000日あります。
10÷7,000×100=0.142%だから0.25%未満どころか0.15%未満
30÷7,000×100=0.428%だから0.5%というよりも0.4%の方がよろしいかと思います。
閑話休題
2011.6.24-2021.6.24の10年間、S&P500の株式分割&配当調整後終値を使ってエリスさんのような、ベスト10日を逃した場合の計算をします。「敗者のゲーム」では具体的な計算方法が載っていませんので、私独自の計算方法です。
10年間であれば2011.6.25からとすべきですが、2011.6.25と6.26は休場だったので2011.6.24からとしました。標本個数は2499個です。
計算方法は、まず前日比値上がりベスト10日を抽出します。
1位 | 2020/3/24 | 1.093827657 |
2位 | 2020/3/13 | 1.092871195 |
3位 | 2020/4/6 | 1.070331304 |
4位 | 2020/3/26 | 1.062414161 |
5位 | 2020/3/17 | 1.059954822 |
6位 | 2018/12/26 | 1.049593807 |
7位 | 2020/3/10 | 1.049396336 |
8位 | 2011/8/9 | 1.047406785 |
9位 | 2011/8/11 | 1.046290017 |
10位 | 2020/3/2 | 1.046039225 |
次に2011.6.24の調整済終値1268.45でスタートし、ベスト10日の前日で売却、当日終値で再取得、ということを10回繰り返して2021.6.24にいくらになっているか計算します。
2011/6/24 | 1268.45 | 譲渡損益 | 取得費 |
2011/8/8 | 1119.46 | -148.99 | |
2011/8/9 | 1172.53 | 53.07 | |
2011/8/10 | 1120.76 | -51.77 | |
2011/8/11 | 1172.64 | 51.88 | |
2018/12/24 | 2351.1 | 1178.46 | |
2018/12/26 | 2467.7 | 116.6 | |
2020/2/28 | 2954.22 | 486.52 | |
2020/3/2 | 3090.23 | 136.01 | |
2020/3/9 | 2746.56 | -343.67 | |
2020/3/10 | 2882.23 | 135.67 | |
2020/3/12 | 2480.64 | -401.59 | |
2020/3/13 | 2711.02 | 230.38 | |
2020/3/16 | 2386.13 | -324.89 | |
2020/3/17 | 2529.19 | 143.06 | |
2020/3/23 | 2237.4 | -291.79 | |
2020/3/24 | 2447.33 | 209.93 | |
2020/3/25 | 2475.56 | 28.23 | |
2020/3/26 | 2630.07 | 154.51 | |
2020/4/3 | 2488.65 | -141.42 | |
2020/4/6 | 2663.68 | 175.03 | |
2021/6/24 | 4266.49 | 1602.81 | |
計 | 1591.9 | 1406.14 |
<計算経路>譲渡益にかかる税金は考慮外とします。
2011.6.24に1268.65で取得、2011.8.8に1119.46で売却。1268.65-1119.46=148.99の譲渡損。
2011.8.9に1172.53で取得、1172.53-1119.46=53.07追加支出。
2011.8.10に1120.76で売却、1120.76-1172.53=51.77の譲渡損。
2011.8.11に1172.64で取得、1172.64-1120.76=51.88追加支出。
以下同様
最終的には、1268.45+1406.14=2674.59支出し、4266.49の売却収入を得たので、
4266.49-2674.59=1591.9の合計利益が得られました。
最初の支出を1ドルとすると1÷1268.45×1591.9=1.25、1ドル25セントの利益。
これに対して、10年間保有して最後に売却したら、
4266.49-1268.45=2998.04の利益。
最初の支出を1ドルとすると1÷1268.45×2998.04=2.36、2ドル36セントの利益。
最終的に1+2.36で3ドル36セントになったわけですね。
1591.9÷2998.04=0.53、およそ53%の利益が失われた計算になりました。
時期によって違いはありますが、おおげさではなく、エリスさんのおっしゃっていることが裏付けられる結果が最近の過去データからも観察できました。
株は次にまた買うのなら売ったらあかん、ということですね。