かけこみリタイヤ―のダイヤリー

陰キャで隠居!58歳10か月でアーリー?リタイヤしました。

吉川徹「コールセンターもしもし日記」フォレスト出版

この本の作者は幸せなのです。例え天井にネズミがさわいで、お米を齧られるような安アパート住まいであっても。
MARCHレベルの大学を出て大企業に勤めたものの職場になじめずパニック障害を起こして退職。妻とは離婚、親権を渡したため息子にも会えなくなった。それから派遣社員としてコールセンターへ勤務する。その後別の職種をいくつか点々とした後再びコールセンターへ勤務。主としてコールセンターに電話をかけてくる「常識のない」人々や同僚、上司のことに筆がさかれています。
コールセンターのトンデモ客の実態をルポしたものとして面白く読む本と思いがちですが、息子に会えなかった状態がずっと続いていたのに、あるとき息子が会いたいと言ってくる。
そこから作者の見える景色が変わってきます。ご本人は自分はご飯を我慢しても愚直に養育費を払っていたからだ、とおっしゃっていますが、そういう面もあるでしょう。
3か月に一度、息子と会い、一年に一回は旅行にいく。ハンドルを握る自分に目を輝かせてチャイルドシートから見ていた息子が、いまや代わりにハンドルを握る。でも旅行費用は親が全部持つ。「お前のほうが倍以上稼いでいるんだから、費用出せよ」「いやあ」とやり取りすることもまんざらでもない。
あれほど避けていた嫌な汗が出てくるコールセンター業務になぜ舞い戻って来たか。そしてそこで周りの環境もあって業績を上げてやりがいを感じてくる。そしてその後給料は安いけれど相手から自分を必要とされる職場へ腰を移す。ここで終わっています。
与えられた環境の中で何を支えに生きていくのか。息子さんの存在が非常に大きい。だけどその生きがいを引き寄せたのはほかならぬコツコツ真面目にやってきた作者自身の内なる力なのです。ふと、独身中高年だったら生きがいをどこで見つけるんだろうか、とも思いました。
この物語には多分続きがあります。それがどのようなものか想像はつきませんが、55歳、今スタートラインに立ったような気がする、とおっしゃる作者のことですから心配は無用でしょう。あちこち頭をぶつけながら腐らず生きてきた作者に、まずは拍手を送りたいと思いました。

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