かけこみリタイヤ―のダイヤリー

陰キャで隠居!58歳10か月でアーリー?リタイヤしました。

渡瀬裕哉「社会的嘘の終わりと新しい自由 2030年代の日本をどう生きるか」すばる舎

他社に介入する権威主義の本質と日本社会の息苦しさの正体、という副題のとおり、なんでこんなに閉塞感を感じる社会になってしまったのか、それから脱却して自由を取り戻すにはどうしたらよいのかという論を展開した本です。

例えば、年金保険は、第二次大戦中に軍人恩給から国家総動員体制のために拡張され、退職後の年代の面倒を見る趣旨のもと、かつては人生を自由に設計し老後の生活も自己責任で考えた民間の決断力を奪い、給付に不満を漏らすだけで自分の人生を政府=権威に預ける人間を大量に生み出したと。医療保険も同様の歴史的経過を踏まえて説明しています。

自由民主党が誕生してから、どんどんリベラルな政策を取り込んで実は政府はどんどん巨大化して人々の感情生活までコントロールし始めている。
日本人は人生の選択肢を無意識に狭めている。自由の欠落こそが息苦しさの正体ではないのか。
保育園、介護制度、中央銀行制度、デジタル化の進展からリベラルな価値観の浸透と共に息苦しさを生むに至る経緯を説明します。

そしてドローンによる戦争形態の変更から安全保障にあり方に疑問を呈します。いわくアメリカで防衛費の増大がぎりぎりで抑えられ新技術が取り入れられているのは独立した民間の査定機関が兵力の在り方兵器技術の提案を厳しく要求するからでありそのしくみがない日本では防衛費は際限なく増大し陳腐化すると言っています。今のロシアと同じだということ。それより新技術や心理戦術、経済的な布石も含めた画期的なアイデアを常に取り入れざるをえないしくみをつくって、戦略や外交手段を常に飛躍的に改善するしくみを淹れることが先だ、というのは注目に値する考えです。

他にも高齢者は人によって状況が違うのに一元的に資産課税を行って再配分するとか雑なこと言いだすのは、高齢者の人生設計を管理することに失敗してるからであり、行政サービスを廃止し、減税と規制廃止を通じて国民に自由を取り戻し、色々な主体が色々な行動でそれぞれの人が望む形で人生に関与するようにしろ、と言う。

そのために、自律・分散型社会の例を持ってくるのですが、ここの例がまた面白い。老人の愛犬の散歩と話し相手をする中学生、LGBTQのプログラマーとLGBTQ嫌いのボルダリング経営者など具体例が出てくるのですが、目的を中心に集まるコミュニティではお互いの素性を明かすことなくトークン(代理貨幣)でアイデアを交換することが可能なので価値観のすり合わせをする必要なく共存できる。
中央銀行制度についても、一部の人間が金利を政策決定できる金融行政の不信感が高まり、暗号資産が支配的になることも予想しています。現に一部の自国通貨が弱い国はドルやユーロで国内決済の相当量をまかなっているじゃないか、という。
そして暗号資産を保有する人は国をまたいで存在するので、その価値を棄損するような政府に反対するため、国をまたいだ越境政党をつくる可能性もある。

最後は自由な社会で生きるために必要な3つの要素「強靭性」「選択性」「決断力」をその獲得方法を提示しながら、それらがなぜ必要とされるのか説明していきます。
どうですか、ちょっと見トンデモ本みたいにも思えますが、私にはとても刺激的でアイデアに満ちた書籍と思いましたので、ここに紹介させていただきます。